大河ドラマ『花燃ゆ』の放送が始まり、もうすぐ4カ月。視聴率は一時、2ケタを割り込むなど低調な状態が続く一方、「歴史ドラマ初心者にも分かりやすい」など評価する声もある。5月3日放送の第18回「龍馬!登場」からは、禁門の変など幕末の動乱を描いた「第2部」が始まる。現在の状況を好転させる“妙手”はあるのだろうか。(本間英士)
■「お手柔らかにお願いします」
「いろいろな原因があると思いますが、主演である以上、私の力不足としか言えません。ともあれ、そこで落ち込んだり、腐ったりしてもしようがない。『至誠を尽くす』という松陰先生の言葉を思い出しながら、最後まで乗り切って頑張りたいと思います。あんまりいじめないで、お手柔らかにお願いします…」
『花燃ゆ』のヒロイン、久坂文(くさかふみ)を演じる井上真央さんは4月20日、「第2部」が5月から始まるのを控えた記者会見で、現在の視聴率の状況について問われ、こう語った。
『花燃ゆ』の初回視聴率は16・7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。以後、徐々に下がり、4月12日放送の第15回は9・8%と、初めて2ケタを割り込んだ。歴代大河の中で1ケタの放送回を記録したのは『平清盛』(平成24年)以来となる。
その日は統一地方選の開票速報があったため、時間を午後7時15分に前倒ししての放送。文の夫の久坂玄瑞(げんずい)役を演じる東出昌大さんも「大河を見ようと思って夜8時にテレビを付けたら、やっていなかった」と苦笑いしつつ、「そういう不運もありましたが、僕らは至誠を尽くすので、ぜひ見ていただけたらと思います」と語った。
■「江」の反省生かしてない
会見では、キャスト陣の意気込みと覚悟が伝わってきた。ではなぜこの熱気が数字に反映されないのか。
テレビ番組に詳しいコラムニストの桧山珠美さんは、「放送前によく言われていた『幕末男子の育て方』というアプローチにそもそも問題があった」と指摘する。「これで『花燃ゆ』を敬遠した大河ファンは多いはず。制作陣は、井上さんが以前、主演を務めたドラマ『花より男子』の時代劇版をイメージしたのでしょうが、イケメンを集めれば女性視聴者は見る、というのは全くの勘違い。大河を見る人は、男女関係なく、男臭い、骨太のドラマを見たいのです。チラリズムを好む男性と同じで、女性だって『イケメンがいっぱいいますよ、さあ見てください』と堂々と言われてしまうと、逆に見たくなくなるものです」
さらに、文がドラマの節目節目に出演する必然性が感じられない、とも指摘する。「文を出すために、無理やり周りの偉人たちが文のための“場所”を作っている。『江(ごう)~姫たちの戦国~』(23年)では、ヒロインの江が徳川家康といっしょに伊賀越えをするなど『江を出すためのご都合主義が強すぎる』と批判されたが、そこの反省を生かしていない」と語った。
一方、『花燃ゆ』には好意的な意見も寄せられている。「ホームドラマの要素があって良い」「歴史ドラマの初心者にも見やすい」といった評価だ。桧山さんも「論語の文章を字幕で紹介したりするなど、あまり歴史になじみのない人も分かるよう工夫されている。幕末のこんがらがった複雑な情勢をやさしく解きほぐそう、という姿勢があっていい」と話す。
■「文、待望論」を作っては?
視聴率回復の第一歩として、桧山さんは「毎回無理して文を出さなくてもいいのではないか」と提案する。「視聴者が見たいのは、やはり維新の話など歴史の激動パート。話が盛り上がっているときに、文が出てきたのでは、流れに水をさされてしまうと感じがち。話の流れによっては、文を脇役にさせたり、逆に全く出さない回を作れば、『文、どこに行った?』という待望論を作れることができるのでは」
桧山さんは、最後にこう話した。「いずれにせよ、多くの視聴者が見たいと感じるのは『ダイナミックな大河ドラマ』。朝ドラは女性が主人公なので、大河は男性に主人公に返すべきではないか」
『花燃ゆ』は、5月3日放送の第18回「龍馬!登場」から第2部へ。奇兵隊結成や池田屋事件、禁門の変など、幕末の激動に突入する。取材陣から、視聴率の状況について尋ねられた土屋勝裕チーフ・プロデューサーは、「数字的には苦戦しているかもしれないが、本当に多くの方々に見ていただいており、ありがたいことだと思う。第2部は見どころがたくさんあり、残された女性たちも協力し、結束していく。辰路(たつじ)という女性(久坂玄瑞の愛妾)も登場するので、妻の文にとっては苦しい第2部だが、見どころはたくさんあるので、ぜひ期待していただきたい」と話していた
リサーチ:テック サイバーファーム ウェア 半田貞治郎